ある政治家の方の、スピーチトレーナーをした時の話。
やや年配のその先生から、こんなことを聞きました。
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街頭演説じゃなくて、地元のパーティでのスピーチなんですがね。
やっぱり、ここでしっかり後援会や支持者と心を通じ合わせて地盤固めをするのが大事なんですよ。
スピーチで、互いの距離が縮まって親しみを感じてもらえるのが最善。
だから、こう会場がどっと笑ってなごやかなムードになるような、ユーモアのある話をしたいわけです。
ところが、今時は笑わせようと思ってオフレコのジョークを言うと、あっと言う間に誰かから漏れてインターネットで騒がれたりする。
難しい時代になったものです。
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この先生が思うところの「オフレコのジョーク」というのがどんなものか、何となく想像がつきました。
一歩間違えると、ブログが炎上したりするような類のものでしょう。
なぜか政治家の先生というのは、内輪の人たちしかいない油断なのか、地元でポロリと「失言」をします。
僕は、その先生に言いました。
時代が難しいのでも、インターネットが悪いのでもありません。
先生の「ユーモア」が間違っています、と。
経験豊富な政治家に意見するのは、けっこうな覚悟がいります。
怒らせてしまったら、口コミで誰からも依頼が来なくなるかもしれません。
しかし、プロのスピーチトレーナーとしては放っておけない。
先生、と僕は続けました。
人の口に戸は立てられない、と言うでしょう?
インターネットがあろうがなかろうが、大勢の方が聴いてらっしゃるのだから、全くのオフレコなんてないと思って下さい。
そもそも、オフレコでなければ困るような話なんて、ユーモアじゃありません。
一部の人が大笑いして、その一方で誰かが気を悪くするような話は、ちっともおもしろい話じゃないんです。
それはユーモアじゃなくて、共通の敵を作ることで連帯感を求めているだけ。
例えば、英国王室の方々はスピーチの中でよくジョークを言いますよね。
全国民・全世界の人が聴いていても全く困らないジョークで、聴衆を笑わせています。
本当のユーモアとは、ああいうのを言うんですよ。
先生は、怒りませんでした。
それどころか、急きょ「うまいジョークの作り方」をトレーニングすることに。
その後のトレーニングが、最高に楽しかったことは言うまでもありません。
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